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関西でユニコーン誕生の予感!? ~「起動デモデイ」レポート~
関西でユニコーン誕生の予感!?~
「起動デモデイ」レポート~
2023年10月18日(水)
世界が注目する成長分野でのスタートアップ創出をめざし、関西圏の企業・大学・自治体のリソースを結集させてスタートした新たなインキュベーションプログラム「起動」。2023年9月20日、第1期の集大成となるデモデイが大阪市中央公会堂で開催された。
「起動」は、全国トップクラスのVCメンター、起業家メンター、各種専門家などによる6か月間のハンズオン支援に加え、最大1,000万円の資金支援やネットワーキングなどの手厚い支援を提供するプログラム。
第1期となる今年度は173社が応募し、1次・2次審査を経て5社を採択。2023年3月から8月までの半年間、それぞれの事業課題に合わせてコーディネーターが伴走し、成長をサポートしてきた。デモデイではその成果と今後の展望が述べられ、関西のスタートアップ・エコシステム活性化への期待が高まる場となった。
事務局挨拶・事業紹介
デモデイは、「起動」の事務局を務める公益財団法人大阪産業局の常務、上野山泰成氏からの挨拶でスタート。
「本プログラムを通じて磨き上げられた事業プランを、これから採択企業に発表いただきますが、どの企業も関西から世界への飛躍が大いに期待されます。また、本日ご参加の皆様との連携が深まることで、関西のスタートアップ・エコシステムがさらに発展することを願っています」と期待を込めた。
▲公益財団法人大阪産業局 常務取締役 上野山 泰成 氏
続いて、事務局でプログラムの運営を担当した大阪産業局の是洞公紀氏がプログラムの概要を説明。
「関西では2025年大阪・関西万博に向けて数々のビッグプロジェクトが進行中で、内閣府のスタートアップ拠点都市を背景に産学官金連携体制が整備されており、今まさに地域のスタートアップの創出、成長に向け絶好の機会を有している」と創設の背景にふれた後、具体的な施策やビジョンについて解説した。
▲公益財団法人大阪産業局 是洞 公紀 氏
成果発表
■リバーセル株式会社
▲登壇者/事業開発部 ディレクター 三宅 俊介 氏
最初の発表は、iPS/ES細胞を活用した「超汎用性T細胞」による、がんに対する新しい免疫療法の開発をめざすリバーセル。
「サポート期間中、手厚い支援をいただいたおかげで、多くの成果を出すことが出来ました。具体的には、協業先をご紹介いただいたおかげで新たな共同研究がスタートしたり、補助金申請のサポートをしていただいたおかげで2023年度神戸医療産業都市研究開発補助金(ギャップファンド枠)を獲得したりすることができました。
特に実用的だったのは、ずっと手を付けられずにいた特許調査を行っていただいたことです。周辺技術も含めてリスト化できたおかげで、今後の特許戦略を整理することができました。他にも、関西ブリッジフォーラムなどを通じて、これまで接点のなかった投資家や、事業会社とのマッチングができました。
このプログラムのすぐれている点は、コーディネーターや事務局のご担当者の真摯なコミュニケーションと、具体的なアクションです。客観的なアドバイスはもちろんのこと、補助金の申請の際には実際に手を動かして資料などを作成していただけるなど、当社の社員のように動いてくださり、感謝しております」と述べた。
また、同社を担当したコーディネーターは、「経営幹部の専門性が高く、一枚岩になってビジョンをめざしているところがリバーセルの魅力。創薬分野なので時間はかかるが、世界に羽ばたくベンチャーになると確信しています」と賛辞を贈った。
■株式会社OPTMASS
▲登壇者/取締役最高技術責任者 坂本 雅典 氏
2社目の発表は、太陽からの赤外光をエネルギーに変え、発電する透明ガラスの開発をめざす京都大学発ベンチャーのOPTMASS。
「弊社が開発をめざす発電窓ガラスの実現には時間がかかります。支援を受ける中で、もう少し短期で収益化できる熱線遮蔽材も事業化する方向で事業計画を再構築することができました。
ネットワーキングにおいても、20社以上の事業会社とお話することができ、うち14社と協業の話が進んでいます。人材採用や知財、展示会出展など数多くの専門的なアドバイスを受けることができた他、梅田の高層ビルを利用しての実証実験を行うことが決定しました。
採択直後から本当に丁寧にサポートしていただき、弊社が本当の意味で“起動”するきっかけになりました。私たちのビジョンである『街を森に変える』という大きな夢に向かって、さらに飛躍していきたい」と決意を語った。
コーディネーターからは「OPTMASSの技術は唯一無二のもので、市場も広大。それゆえにステークホルダーの思惑も強く、調整も大変だと思いますが、これは世界に羽ばたくスタートアップだからこその悩みだと思います。今日ご参加の方々も、ぜひ強い思惑を持ってネットワークを築いてほしい」とメッセージが贈られた。
■株式会社EX-Fusion
▲登壇者/共同創設者兼CEO 松尾 一輝 氏
次に登場したのは、レーザー核融合による発電技術の開発をめざす大阪大学発ベンチャーのEX-Fusion。
「プログラム期間中にシードラウンドで18億円の調達を完了できましたが、これも一部は起動でのネットワーキングのおかげです。この調達がきっかけで、海外ファンドからの調達に向けても動いています。大阪府の令和5年度カーボンニュートラル技術開発・実証事業費補助金に採択されるなど、補助金申請においても大きな成果となりました。
起動が素晴らしいのは、オール大阪でヒト・モノ・カネの支援を適宜行ってくれたところ。特に補助金申請においては、外からアドバイスするだけでなく、社員のように一緒に汗をかいてくれました。
個人的にもっともうれしかったのは、大阪で生まれた技術にも関わらずあまり知られてこなかったレーザー核融合の認知が広がり、胸を張って『大阪発』と言えるようになったこと。大阪から世界へ羽ばたけるよう、今後も開発を加速させたい」と意気込みを語った。
担当したコーディネーターも「支援というより、社員として一緒に走ったという印象でした。そうさせたのは松尾社長の『世界を変える』というぶれない信念。その信念に多様な研究者が惹きつけられて強い組織を築いているのがEX-Fusionの強みだと感じました」と同社を称えた。
■株式会社ミーバイオ
▲登壇者/代表取締役 早水 建祥 氏
次に登壇したのは、「光スイッチタンパク質」を基盤技術に、バイオものづくりの世界で新たな可能性を切り拓くミーバイオ。東京大学発ベンチャーの同社は、採択企業で唯一、関東に拠点を置いている。
「支援期間中に、以前からめざしていた大阪の拠点を開設することができました。起動の支援を通じて新たに研究機関との共同研究も開始し、その成果をベースに国の予算獲得の可能性も出てきました。
何より有益だったのは、関西コミュニティへ参画できたこと。関西経済同友会のネットワークイベントなどでは多くの企業とつながることができました。次々に人を紹介してくれる関西特有の“おせっかい”が心地良く感じられました。
この成果をさらなる推進力に変え、『光スイッチバイオ生産システム』をバイオものづくり産業のデファクトスタンダードにしたい」とビジョンを語った。
担当コーディネーターは「バイオものづくりは国策ともいえる重要な産業テーマ。ミーバイオは、それがいかに難しいか、そしてどれほど日本にとって重要か、身をもって理解している企業です。国際競争に負けないためにも、同社の技術が標準化されることを願っています」と今後の成長に期待を寄せた。
■株式会社fcuro
▲登壇者/代表取締役社長CEO 岡田 直己 氏
最後の登壇者は、一分一秒を争う救急医療現場において、AI診断による救命率向上をめざすfcuro。「あなたの大切な人が交通事故に遭ったら?」というシリアスな問いかけで客席を引きつけた後、起動の成果を発表した。
「毎週、コーディネーターと綿密なディスカッションをさせていただき、事業計画や資金計画の再構築ができました。特に大きかったのは、補助金を原資とした研究開発から、自社売上を基盤にした事業運営への路線変更。その一環として、実証を続けているAI診断に加え、現場の業務負担を軽減するための医療文書作成支援AIを新たに事業化することができました。
また、パートナー企業である三井住友海上火災保険株式会社とは、診断AIの普及に伴う保険の新しい枠組みについて共同開発を進めています。弊社が開発するソフトウェアに最適化されたハードウェアの開発も、この支援を通じて加速することができました。
2025年大阪・関西万博への出展が実現すれば、AIと人のハイブリッド救急診療をVRで体験するような展示をしたいと考えています」と万博への意気込みを語った。
コーディネーターからは、「fcuroは代表の岡田さんだけでなく、チーム全員の頭の回転が速く、尖っています。岡田さん自身、現役の救命医ということもあり、このポテンシャルの塊のようなチームが徹底した現場目線で開発しているところに同社の強みがあります。今後さらに、資金や広報などで支えてくれるパートナーとの出会いを広げていってほしい」とエールが贈られた。
閉会挨拶・ネットワーキング
5社の発表が終わり、最後に再び是洞氏より総括と今後の展望が述べられた。
「今回、採択された5社はそれぞれが独自の強みを有し、将来、関西を代表するスタートアップになると期待しています。『起動』はまだ道半ばですが、この取り組みが地域の活動をつなぐきっかけとなり、関西が一丸となってスタートアップ・エコシステムを推進できることを肌で確認することができた」と評価。
最後に「第2期は今回生まれた機運をより大きな輪に広げ、関西のエコシステムを大きく飛躍させたい」と決意を新たにした。
終了後は参加者と登壇企業によるネットワーキングが行われ、活発に名刺交換が続いていた。ここで生まれたコミュニティが関西のスタートアップシーンをさらに活性化させ、ユニコーン創出への礎となる。そんな期待を抱かせるデモデイだった。
(取材・文 福井 英明)