起動NEXT 関西 DeepTech Day
開催概要
革新的な技術が数多く披露され、未来社会への期待が大きく膨らんだ大阪・関西万博。その興奮冷めやらぬ大阪で、ディープテックの社会実装に向けた議論と出会いの場「起動NEXT 関西DeepTech Day」が開催された。ビジネスメディア「PIVOT」とのコラボイベントとして行われた本イベントは、後日PIVOTの番組として配信され、関心の輪を全国へ広げている。
▶ https://youtu.be/KMymksCifgc
【開会挨拶】
イベントの冒頭、開会挨拶に立ったのは大阪府商工労働部の前田氏。「この秋には国内最大級のイベントとしてGlobal Startup EXPO(GSE)を開催しますので、ぜひご期待ください。大阪・関西をディープテックの世界的拠点として確立していきます」と決意を語った。
大阪府 商工労働部 成長産業振興室長 前田 真一 氏
株式会社三井住友銀行 常務執行役員 ホールセール部門副責任役員 髙﨑 栄一 氏
【開会挨拶】
国際環境経済研究所 理事・主席研究員/東北大学特任教授/U3イノベーションズ合同会社共同代表 竹内 純子 氏
慶応義塾大学教授 宮田 裕章 氏
株式会社圓窓 代表取締役/武蔵野大学アントレプレナーシップ学部専任教員(教授) 澤 円 氏
PIVOT MC 西川 典孝 氏
挨拶が終わると、いよいよセッションがスタート。3名の有識者を交えたトークセッションの中に起動NEXT採択企業のピッチを組み込むユニークなスタイルで、関西ディープテックの可能性と課題を深掘りした。MCを務めたPIVOT西川氏が「起動NEXT」のプログラム概要を説明した後、「関西」の文化的土壌やビジネス環境をテーマに議論がスタート。大阪・関西万博でテーマ事業プロデューサーを務めた宮田氏が次のように口火を切った。
「1970年の万博と異なり、今回は来場者の約7割が関西の方で、地元の方々が面白がってくれたことが最大の成功要因だと思います。ローカルイベントの成功例としては史上最大級と言えるのではないでしょうか」。これに対し、澤氏は「東京と大阪の二極がそれぞれ日本を牽引すれば、発展のスピードが2倍になります。東京の延長線上ではなく、異質なものを生み出す土壌があることで、イノベーションの本質である『新結合』も起こりやすくなるでしょう」と関西の可能性を強調した。
さらに竹内氏は、スタートアップが育つ環境として関西の強みを次のように論じた。「イノベーションにとって大切なのは興味関心の幅の広さやネットワークの力。関西には新しいことに挑戦する人に興味を持ち、困っていたら自然と手を差し伸べる文化があります。この環境は間違いなくイノベーションに適しています」。
その後はAIとの向き合い方やエネルギー需要など、さまざまなテーマでトークを展開。最後は宮田氏が「万博を機に関西では幅広い年齢層でデジタルリテラシーが上がりました。一方で生成AIの進化により今後は日本人が得意な『応用力』が問われる時代になるので、この好機をぜひ生かしていきましょう」と締めくくり、起動NEXT採択企業のピッチへと移った。
【起動NEXT採択企業ピッチ】
成勢 佳裕 氏(株式会社EX-Fusion 渉外部)
石川 格靖 氏(ソラリスバイオ株式会社 代表取締役社長)
最初に登壇したEX-Fusionの成勢氏は「海水からエネルギーを生み出せる未来が実現すれば、世界中の誰もが幸せになる」とフュージョンエネルギーの価値を強調しつつ、応用事業として高出力レーザー加工に取り組んでいることを紹介した。
エネルギーを専門とする竹内氏は「主力事業から派生したビジネスで、最終ゴールに到達するまでの収益を確保するモデルは非常に優れている」と評価。宮田氏は「フュージョンエネルギーは人類史的なスケールのビジョンなので、関係者を巻き込みながら一緒に設計図を作っていってほしい」とエールを贈った。また、澤氏はプレゼンテーションへの評価として「オーディエンスに『何を持ち帰ってほしいか』を明確に」とアドバイスを贈った。
続いて登壇したのは、毒性の低い凍結保存液などの開発を通じて、誰もが再生医療にアクセスできる世界をめざすソラリスバイオ。石川氏は「関西は再生医療の聖地であり、世界が注目している。その関西で成功し、グローバルに成長していきたい」と決意を語った。
医療の世界を変える可能性を持つ事業に対し、宮田氏は「医療は『信頼』を担保するためのコストが非常に高い分野なので、質の高い医療を提供しているプレーヤーと組むことが大切」とアドバイス。澤氏は「この種のプレゼンは『ソラリスバイオがある世界・ない世界』の対比を見せると説得力が一気に高まる」とノウハウを伝授した。
津田 明彦 氏(光オンデマンドケミカル株式会社 代表取締役)
独自の光合成技術でメタンガスから化学原料のホスゲンを生み出す光オンデマンドケミカル。登壇した津田氏は「KOBE光ものづくりオープンイノベーション拠点」の開設で生産体制が整ったことをアピールし、「今後の課題は生産とビジネスのスケールアップ。ぜひ皆様と連携したい」と訴えた。
宮田氏は「既存の化学品の大量生産・大量消費とは異なり、誰もが生産者になれるビジネスモデルにつながる。地方創生の観点からも可能性を感じる」と評価。竹内氏は「エネルギー危機が起こったとき、最初に干上がるのが化学産業なので、この技術の意義は大きい」と期待を示し、澤氏は「技術に詳しくない人に向けたピッチにすることで、仲間を増やす連鎖が生まれる」と助言を贈った。
早水 建祥 氏(株式会社ミーバイオ 代表取締役)
中山 繁生 氏(Yellow Duck 株式会社 CEO)
続いて登壇したのは、光で微生物の代謝経路を制御するオンリーワンの技術を武器に、バイオものづくりの市場創出をめざすミーバイオ。「人類最大の課題は『脱石油』であり、『脱炭素』はその前哨戦。経済安全保障の観点からも、バイオものづくりを国家戦略として強化していくべき」と展望を語った。
竹内氏は「国の成長戦略においても重要な分野。ラボで成功したことをプラントでも実現できるか、など課題は多いと思うが期待している」と激励し、宮田氏は「コスト的な価値だけでなく、化学品供給網の『レジリエンス』という観点でも価値を訴求すると、さらにインパクトがある」と提言。澤氏からは「脱石油という大きな課題に関連付けて、個人がイメージしやすいミクロな課題解決のストーリーも組み込めば、さらに広がりが期待できる」とアドバイスが贈られた。
最後の登壇者は「海に囲まれながらエネルギーを輸入に依存している日本にこそ必要なもの」と波動発電の技術と事業モデルを紹介したYellow Duckの中山氏。「他の再生可能エネルギーが不得意な部分を補完しながら、カーボンニュートラルをめざしていく」と目標を語った。
この「補完」という言葉に対し、宮田氏と竹内氏は「設備稼働率も他の再生可能エネルギーよりはるかに高いので、『補完』という控えめな言い方をせず、オンリーワンの価値として自信を持って訴求すべき」と背中を押した。また、プレゼンテーションのスライドに着目した澤氏は「アニメーションの使い方が秀逸で、非常に理解しやすい」と称賛した。
【未来への提言】
5社のピッチが終わり、最後は「未来への提言」と題して3名がそれぞれ展望を語った。まずは澤氏が「世の中では『サステナブル』や『エシカル』などのキーワードが叫ばれていますが、まだまだ大量生産・大量消費に支えられています。そのソリューションを日本がリードする可能性があることにワクワクしています。規模の経済ではアメリカや中国が強いですが、アイデアとパッションでは負けない」と期待を込めた。
続いて宮田氏が「既存の価値を置き換えることは非常に難しく、具体的な未来像を多角的に示せるかどうかがポイントになります。今日登壇した5社にはぜひ成功してほしいですし、そのための環境や制度を整えるのは周りにいる私たちの責任だと感じています」と力説。最後は竹内氏が「本当にレベルの高い5社が選ばれたと感じました。ぜひスタートアップマインドを持ち続けて、厳しい市場にもチャレンジし続けてほしい。そして、皆さんの成功はダイレクトに日本の成長につながるので、私たちも応援し続けたい」とエールを贈った。
【閉会・ネットワーキング】
公益財団法人大阪産業局 常務理事 上野山 泰成 氏
セッション終了後、大阪産業局の上野山氏が「関西には世界レベルの研究基盤や技術シーズがあり、これらを社会課題解決のドライバーとして実装することが重要。本イベントにおける交流で多様なプレーヤーの連携が生まれることを期待しています」と閉会挨拶。その後は展示エリアで参加者と登壇者を交えたネットワーキングが行われた。展示エリアには起動NEXTの採択企業に加え、ディープテック分野での事業化をめざす11社のスタートアップが出展し、事業加速に向けて参加者との交流を繰り広げた。
登壇者と熱心に意見を交わす人、展示ブースで説明に耳を傾ける人、パネルや会社案内に見入る人……会場のいたる所で知見とアイデアが交わり、関西ディープテックを支えるエコシステムがより一層拡大する一日となった。
<展示エリア出展企業>
- 株式会社イムノセンス
- 株式会社 Godot
- 株式会社セルフォールド
- 株式会社Thinker
- 株式会社TSK
- 株式会社HACARUS
- Hiuchi Pharma株式会社
- 株式会社マリ
- メトロウェザー株式会社
- 株式会社YSH総合研究所
(取材・文 福井 英明)